2020年5月30日土曜日

ガクフノイミ

皆様、お久しぶりです。
全国緊急事態宣言も解除され、いよいよ今日からウチのオケも練習を再開します。
長かったー。

さて今日は、私なりの「ガクフノイミ」を考えます。
まずは、これ。

①は、童謡「チューリップ」の冒頭の楽譜。
私たちは、普通この楽譜をピアノ、ヴァイオリン、オーボエ、声など、様々なデバイスを使って、音に変換する作業をします。これが演奏ですね。

でも、①の楽譜は、音程や音出しのタイミングの情報はあるけど、音符の中身や次の音にどうつなげるのかなど、様々なニュアンスに関する情報はありません。
つまり「楽譜はあくまで演奏のヒントに過ぎない」ということです。

例えば②は、ヴァイオリンのデタッシェ的というかオルガン的というか、そういう演奏のイメージです。
③だと、2つの音をスタッカートし、二分音符は小さく入って最後に念押しのスフォルツァンドみたいな変な演奏。
④は、強く出て、ずっとディミヌエンド。
⑤は、レガートで音符をつなげ、二分音符の真ん中を膨らませる。
⑥は、あんまりうまく表現出来てないけど、バウンドするような音で演奏するイメージ。

つまり、①みたいな「いわゆる楽譜」を演奏するときには、その向こうに無限の表現の可能性があることを認識し、自分はどう表現したいのかはっきりとしたイメージを持つ、すなわち解釈することが大切なのです。

⑦は、言わずと知れたベートーヴェンの「運命」の冒頭です。
例えばカラヤン、ベルリンフィル、1982年の演奏を私なりに楽譜にしたのが⑧です。演奏はこちら
楽譜には八分休符しか書いてありませんが、最初のタクトを降ろすまでに巨大なエネルギーが形成され、それが一気に爆発する感じです。
ベルリンフィルは、すげーうまい奏者が自律的に演奏し、それが同じ方向を向いてザクザクした束になっている感じです。
フェルマータは、当然2回目のほうが長く、そして最後の音の切り際も力がこもっています。かっこいい。
でも、⑧みたいな楽譜を渡されても、逆に困惑すると思いますが。

最後、⑨は天才美空ひばりさんの「東京キッド」の冒頭。
YouTubeに音源が上がっているので、是非聴いてみて下さい。こちら
音楽とは何かをこれほど教えてくれるものは、他にないと思います。
こんなのは、とても楽譜に書けません。

ちなみに、美空ひばりさんは楽譜が読めなかったそう。
「ガクフノイミ」を考えるのに、示唆に富むエピソードです。

2020年5月17日日曜日

左手のフレームを作る

皆様、こんにちは。
こんなマニアックなブログを見ていただいて、本当にありがとうございます。
ほぼ自分の練習法や考え方の整理のために書いていますが、応援いただけるととても嬉しいです。

さて、今日は左手のフレームを作る練習です。
今回は独自の練習法ではなくて、効果の高いエチュードの紹介です。

まず、ヴァイオリンやビオラで弦を押さえる左指の形は、以下のA〜Dの4パターンに整理されます。
正しい音程で素早く指を動かすには、「フレーム(枠)」という概念が必要です。
「フレーム」を私なりに説明すると、演奏の際、左指を一本ずつ音に向かって伸ばしたり縮めたりするのでなく、その時々の調性などに応じて「あらかじめパターンA〜Dの形を作っておき、必要に応じて指板に指を置いたり持ち上げたりする」ようなイメージです。

A〜Dのパターンは、形の作り易さ・難しさに差があります。
例えば、一番作り易いのがBパターン、逆に難しいのがAパターンです。
ポイントは「薬指」。左指の中で一番動かしにくい指ですね。
小指は力が弱いけれど、薬指に比べると自由に動くと思います。まあ、人によって差があるとは思いますが。
パターンBは、中指と薬指が全音。空中でこの幅を保つのが難しいのです。

さて、このフレームを形成する非常に良い練習が、セブシックのOp.1, Book1の5番です。
冒頭の譜面は、こちら。
こんな譜面がここから3ページにわたって、A線から始まって、D、E、G線の練習まで続きます。鬼セブシック。
エチュードへのリンクはこちらのページからどうぞ

このエチュードは、うちの娘たちのヴァイオリンの先生(いとこの嫁さんですけど)から教えてもらいました。
「演奏の前の指ならしに最適」というお勧めでした。おっしゃる通り。
特に、私みたいな遅くヴァイオリンを始めた者にとっては、指の独立性とフレームの確立のトレーニングとして最強でした。

私にとっては、最も付き合いの長いエチュードの一つです。
皆さんも、是非騙されたと思って弾いてみて下さい。
では。

2020年5月10日日曜日

コンテンツ・マップ

コンテンツ・マップ

このブログにある全てのコンテンツを一覧にしました。
それぞれのタイトルはリンクになっているので、興味のある所を開いて見て下さい。
このページは、随時更新します。

コラム
おうちでスキルアップしよう!
良い練習、悪い練習とは?
ガクフノイミ

右手
右指の力を抜き、柔軟性を養う練習
弾き癖を治そう!逆弓こだわり練習

左手
ビブラートの練習
左手のフレームを作る

練習法
リズム練習のすすめ
リズム練習のすすめ -その2 -
「セルフ基礎練習」開発のすすめ



右指の力を抜き、柔軟性を養う練習

皆さん、こんにちは。
少しずつ暑くなってきました。

以前に「セルフ基礎練習開発のすすめ」と題して、自分向けオーダーメイドの基礎練習を工夫することの必要性をお話ししましたが、今日はその一例として、私なりに開発した「右指の脱力と柔軟性を養う練習」を紹介します。

ヴァイオリン演奏上、解決の難しい問題として、私は「楽器と身体が触れる場所のより良い在り方」を考えています。
楽器と身体が触れる場所は、ヴァイオリンの場合、3箇所です。
すなわち、
・楽器の底部と肩、首、顎
・ネックと左手
・弓と右手
ですね。

このうち、今日取り上げるのは「弓と右手」の問題です。
弦楽器の特性上、発音体たる弓を扱う箇所として右手の重要性は言うまでもありません。

けど、弓って何であんな細いねん。
鉛筆ぐらいの太さで、ぐらぐらして持ちにくいんじゃ!
もっと持ちやすいのを発明せんかい!
と考えるアマチュアヴァイオリン弾きは、世界に1億人ぐらいいると思います。
(実はぐらぐらだから美音が出せるんですけどね。)

右手にありがちなビョーキは、以下の通りです。
小指が突っ張る病

親指が突っ張る病

すげー力で持つ病
こうした持ち方では、ヴァイオリン本体から出てくる音は悲惨なものになります。

ちなみに、美音で高名なアルテュール・グリュミュオーの美しいグリップはこちら。


レッスンに行くと先生は、
「力を抜きなさい」とか、
「小指は丸めようね」とか、
「親指はキツネじゃなくてタヌキ」とか教えてくれるけど、
どうやったらそれが出来るのかまで教えてくれる人は少ないと思います。
ほとんどのヴァイオリンの先生は、自分が幼い頃に無意識にこの問題をクリアしてしまっているので、他人にどうやって教えたらいいか知らないのでは無いかと思います。

私は、右手の指の力を抜くコツを掴むには、元弓の練習が最適だと考えています。
特に、元弓の送り弓※1と移弦※2の練習。両方とも脱力していないとできません。
※1 普通、運弓はダウン・アップ交互だが、送り弓はダウン・ダウン、アップ・アップなど同じ方向が連続する運弓。
※2 移弦とは、ある弦を弾いた後、別の弦に弓を移動して弾く作業。例えばA弦を弾いた後、D弦に移って弾く。

説明するより見たほうが早いので、動画をどうぞ。
ここで使っている練習曲は、こちらの記事からダウンロードできます。

まずは、単純な元弓の運弓と、送り弓。
テキストは、カイザー教本の第1番です。


次に、元弓での移弦練習。
練習曲は、セブシックのOp.1, Book 1の11番。シュラディークのBook1のIV。
絶対、右手の指が脱力していないとできないと思います。


この間、「ステイホーム週間」とか言ってたけど、皆さんも是非「右手脱力週間」の取り組みをしてみてください。
1週間詰めてやれば、絶対効果が見えると思いますよ。
さあ、みんなでやってみよう。
あ、そうそう。この練習は、大人の変態の人向けです。
良い子は決して真似しないでください。ヴァイオリンが嫌いになるから。

余談ですが、普段から元弓が使えているかどうかは、根本の弓の毛が汚れていないかをチェックするとすぐわかります。

では。

ヴァイオリンのエチュード紹介

皆様。
このブログを書くにあたって、様々なエチュードの楽譜をまとめて紹介しておいた方が良いことが分かったので、この記事を作っておきます。

クラシックの無料楽譜サイトIMSLP
https://imslp.org/wiki/Main_Page
まずは皆さんよくご存知でしょうが、クラシックの無料楽譜サイト。
ここのお世話にならない日は無いぐらい、大変ありがたいサイトです。
ずっと継続して欲しいと思うので、私は数年前から有料会員登録しています。
以下紹介するヴァイオリンのエチュードも、全てこのサイトに登録のものです。

H・E・カイザー、36の練習曲
http://conquest.imslp.info/files/imglnks/usimg/e/e7/IMSLP32135-PMLP73098-Kayser_36_Studies_Op.20_for_Violin.pdf
ヴァイオリンを習い始めの頃、みんなが弾く定番の練習曲。
後ろの方にはどんな曲があるのか、全然知らない。また、今度見てみよう。
以下、Violaバージョン
http://conquest.imslp.info/files/imglnks/usimg/7/71/IMSLP576038-PMLP73098-Kayser_op-55.pdf

R・クロイツェル、42の練習曲
http://conquest.imslp.info/files/imglnks/usimg/0/0d/IMSLP01503-Kreutzer_Complete_Etudes.pdf
これもヴァイオリンを習って数年経つと必ず弾くエチュード。
特に2番の曲は評価が高い。あと、トリルの練習とか、レガートの練習とか、マニアが喜ぶ練習曲が並ぶ。ヴィオラ版もあります。

O・セブシック、School of Violin Technique, Op.1, Book 1.
http://conquest.imslp.info/files/imglnks/usimg/c/c6/IMSLP24975-School_of_Violin_Technique_Op.1_Book1_for_Violin.pdf
エチュード界最強の変態的曲集。
このBook 1は,ファーストポジションの練習曲集。
左手のフレーム作り,音階,移弦の練習など、何でもござれ。

O・セブシック、Changes of Position and Preparatory Scale Studies, Op.8
http://conquest.imslp.info/files/imglnks/usimg/b/b7/IMSLP237833-PMLP56027-Sevcik_-_Shifting_(changing_the_position)_and_preparatory_scale-studies_for_violin_Op8_(Mittell).pdf
これまた、ポジション移動を徹底的に追求する変態的練習曲集。
是非一度、全部弾いてみることをお勧めする。
ポジション移動が上達するより前に、セブシックを殺したくなること受け合い。
もう死んでますけど。

H・シュラディーク、School of Violin Technics, Book 1
http://conquest.imslp.info/files/imglnks/usimg/3/37/IMSLP26801-PMLP59431-Henry_Schradieck_School_of_Violin_Technics_Bk.1.pdf
「シュラーディク」なんだか、「シュラディーク」なんだか、「シュラディック」なんだか、何が何だかわからん名前のドイツ人が書いた練習曲。
見れば見るほど、全曲制覇したくなる尋常ならざる譜面が連続。
1番なんか、是非やってみることお勧め。
左小指がつること間違い無し。

E・ポロ、30の重音の練習曲
http://conquest.imslp.info/files/imglnks/usimg/9/9a/IMSLP163634-PMLP292933-Polo-E-30-Estudios-en-Cuerdas-Dobles.pdf
こっちは、イタリア人のポロさん。
重音の練習曲が盛り沢山。
美しい曲が多いので弾いていて楽しいし、複数弦を同時に美しく鳴らすボウイングを習得できる貴重な曲集。

C・フレッシュ、音階教本
http://www.el-atril.com/partituras/Metodos/violin/Flesch_scale_system_for_violin.pdf
ヴァイオリンの音階教本の中でも、最も有名なもの。
こちらはIMSLPにはアップロードされていない。
リンクを探すとあるけど、こんな基本的な教本は是非買って、手元におきましょうね。
楽譜出版社を応援するためにも。

2020年5月6日水曜日

「セルフ基礎練習」開発のすすめ


皆さん、こんにちは。
今回は「「セルフ基礎練習」開発のすすめ」と題して、日頃考えているスキルアップのアイデアを綴りたいと思います。

「セルフ基礎練習」は私の造語ですが、意味は「自分に足りない特定の技術を習得するために、自分なりに工夫した基礎練習」です。

これが私のセルフ基礎練習セット。

左はフレッシュの音階教本、右は様々なエチュードから抜き出した譜面を入れてあるクリアファイルです。
これらを使って、練習の初めにいくつかの基礎練習を行います。
土曜日のオケの練習の前にも、できるだけ基礎練習してから行くようにしています。

セルフ基礎練習のメニューをいくつか紹介します。
・ビブラートの練習(既にブログで紹介したもの)
・送り弓の練習(元弓、先弓、全弓)
・弓速、弓圧を変化させる練習
・移弦の練習(中弓、元弓、先弓)
etc.

つまり、このブログで紹介したあるいは、これから紹介する練習方法は、セルフ基礎練習そのものです。
既に紹介したリズム練習も重要なメニューの一つです。
本当は一つ一つの練習メニューを具体的に紹介しないと、イメージが湧きにくいと思いますが、それは今後少しずつアップしていきます。

いつ頃からこんなことを始めたのか?
あまり定かではありませんが、黄色のファイルを作ったのが7、8年前。
それ以前にも、逆弓練習とか、エチュード丸ごと制覇プロジェクトとか、様々に自分で工夫して練習するのは好きでやってました。

なぜ自分向けの基礎練習を開発するのか?
長年アマオケに所属して様々な曲を演奏してきましたが、オケの曲には必ずうまく弾けない箇所があって、その原因はいくつかに集約すると感じていました。

例えば、
・刻みを弾く時、弓がぶれやすい。→弓の軌道が習得できていない。右指の力み。
・元弓で自由なコントロールができない。→右指の柔軟性がない。肩の力み。
・先弓で粘りのある音が出せない。→弓の軌道の問題。右手の形。
・ポジション移動が自由にできない。→ 左指を強く押さえ過ぎ。
・いつの間にか首、肩、右手の親指などに力が入っている。→力みを察知する感覚不足。
etc.

また、特定の曲の難所について「何で弾けないのだろう?」と原因を探っているうちに自分の技術の弱点に気づくこともよくあります。
一つ一つの技術習得にマッチするエチュードは必ずあると思いますが、それを探す時間はもったいない。

そこで、既存のエチュードの使い方を異常にマニアックに工夫して、「大リーグボール養成ギプス※」みたいな特訓に仕立て上げるのがセルフ基礎練習です。
※年齢が若すぎて「大リーグボール養成ギプス」を知らない人は、こちらこちら

「わからん!お前のいうことは、全然わからん!」という声が聞こえてきそうなので、次回は初期に開発したセルフ基礎練習メニュー「右指の力を抜き、柔軟性を養う練習」をきっと紹介します。

最後に、練習に関するダルビッシュ有の金言を紹介します。
「練習は嘘をつかないって言葉があるけど、頭を使って練習しないと普通に嘘つくよ」
https://twitter.com/faridyu/status/15897716977?s=21
おっしゃる通り!!

皆さんも、頭を使って「嘘無し、無駄無し」の練習を目指しましょう。

2020年5月4日月曜日

ビブラートの練習

皆様。
お元気ですか。
今日は、私がやっているビブラートの練習方法を紹介します。

ビブラートは、音色を豊かにして音楽に感情の要素を加えるのに力強い武器である反面、けいれんみたいに無意識に震える「止められないビブラート」になってしまったり、貧弱な弓使いや音程の悪さを自分で気づきにくくしてしまったり(他の人には気付かれている!)と、取り扱いの難しい技術でも有ります。

私はヴァイオリンでビブラートを美しくかけるために、以下のことを習得する必要があると考えています。
・ビブラート無しでも演奏できること。ポジション移動の時も。
・様々なスピードで、かけられること。
・人差し指から小指まで、同じようにかけられること。
・正しい音程を最高音として、そこから下に向かってかけること(これは、深山尚久著「目からウロコのポイントチェックI」スタイルノート社にも書かれています)。
・16分音符などの短い音や、移弦の直後、ポジション移動の直後の音にもかけられること(これはとても難しい)。

そのための練習方法として、この楽譜のような練習を行なっています。



この練習は、サードポジションで行います。
なぜなら、その方がかけやすいから。ファーストポジションは手が体から遠く、また人差し指がスクロールに当たってかけにくいなんてこともあります。
そんなに時間もかかりませんし、練習の始めの柔軟体操のつもりでやっています。
やってみるとわかりますが、楽器を支える左手や首、肩のバランスの練習にもなります。

次に音階練習。
音階も、必ず練習の初めにやるものなので、ここでビブラートの練習も一緒にやってしまいましょう。
ただし、必ず「ビブラート無しの音階」を先にやり、次に「ビブラート有り」をやるようにしています。



ビブラート無しでシビアに音程を確かめ、次にビブラート有りでどの音にも均一にかかるように練習します。全部均一にかけるのは結構難しいです。

次は、オケの曲の練習例です。
曲は、マーラーの交響曲第2番2楽章の455小節から。
はじめにビブラート無しで、次にビブラートをかけて。

ここは、「これを弾くために第2交響曲を弾くのだ」というぐらい涙チョチョ切れる美しい箇所です。
音程の跳躍や転調のために非常に演奏が難しい箇所です。

まず、ビブラート無しで音程、弓の配分や圧力の変化などを確認します。
この段階で、ヴァイオリンを辞めたくなるぐらい悲しい思いをするはずです。

そして、最後の仕上げはビブラートをかけて。
ここに至って、自分はなんて上手いんだ!と感動することになります。

そう。ビブラートという技術は「正しい音程と弓使い」に重ねて使えば、最強の武器となるのです。
ぜひ、お試しください。

ガクフノイミ

皆様、お久しぶりです。 全国緊急事態宣言も解除され、いよいよ今日からウチのオケも練習を再開します。 長かったー。 さて今日は、私なりの「ガクフノイミ」を考えます。 まずは、これ。 ①は、童謡「チューリップ」の冒頭の楽譜。 私たちは、普通この楽譜をピアノ、ヴァイ...